現在、川崎市は、京浜急行大師線の京急川崎駅から小島新田駅まで(延長約5キロメートル)のほぼ全線を地下化する連続立体交差事業を進めています。
昨日(8月31日)、川崎市議会「まちづくり委員会」にて、東門前駅から小島新田駅の1.2キロメートルの事業費が180億円増額されるという報告が市当局よりありました。
当局によれば、増額の理由は主として資材等の高騰や工法の変更とのこと。
このブログでも再三にわたり申し上げてきましたが、1997年以降の緊縮財政路線により我が国の公共事業費は今やほぼ半減されました。1997年の公共事業費が約44兆円に対し、現在は約25兆円です。
これによって我が国のインフラ整備と防災安全保障を担っている建設業者数とその従事者数は激減し、建設関連の供給能力は削減され続けてきました。結果、自然災害やオリンピック関連投資などの特殊需要が重なってしまうとすぐさま供給不足に陥り、建設関連の設計単価は上昇します。昨今の川崎市でも入札不調の割合が増えているのはそのためです。
委員会ではさっそく、「(このような税金の投入について)市民の理解をえられるのか?」という愚問がでました。
本日の朝刊でも、読売、朝日、神奈川の各新聞社が、「180億円増」という見出しをつけて事業費増額の記事を掲載しています。
見出しのつけかたに若干の悪意を感じますが、新聞社は事実関係を記事にしているだけなので、まあいいとして。
この深刻なデフレ期において・・・
「180億という決して少なくない税金がぁ~」とか、「市民の理解がぁ~」
と、殊更に問題視する市議会議員(某まちづくり委員会委員)のレベルのほうが理解できない。
別に当該事業に不正な取引や工事があったわけではありません。単に資材が高騰し、現場環境に応じて工法を変更しただけの話です。しかも総事業費の55%を補助している国土交通省だって納得している話です。
この種の議員は常として、
1.公共投資は立派な需要項目の一つであること
2.おカネは使っても消えないこと
3.インフラにはフロー効果だけでなくストック効果があること
の3つについての無知です。
1~3は具体的に次の効果を発揮します。
1.→ デフレギャップ(需要不足)を埋める効果
2.→ 誰かの赤字(支出)は誰かの黒字(所得)であり、所得増は税収増になる効果
3.→ 長期にわたるGDPの押し上げ効果
例えば、平成24年に完成した京浜急行(蒲田駅周辺)の連続立体交差事業では、約1700億円の事業費を要しました。しかしながら、この立体交差化により交通流の円滑化が図られたのみならず、それまで踏切によって足止めをくらっていた事業者の皆さんの生産効率は確実に上がることになりました。
これによって、年間のGDPが仮に100億円増えたとします。とすれば、わずか17年で元(採算)がとれるという話になるのです。これを公共事業のストック効果といいます。
何よりも、日銀の量的緩和以来、日本は深刻なほどの超低金利(今や長期金利はマイナス)状態です。にもかかわらず、民間企業はデフレで投資を拡大できない。そうした状況のなか、行政にまで家計簿的発想を持ち込んでくること自体、経世済民の意味を理解していない証拠です。
因みに今朝、財務省から第2四半期(4~6月期)の法人企業統計が発表されましたので、企業の設備投資状況の推移を下のグラフのとおりご紹介させて頂きます。
ご覧の通り、2005年から2008年までは米国の住宅バブルの影響もあって多少増えましたが、デフレ突入以降は右肩下がり基調です。
法人企業統計は統計のサンプリングが大企業に偏っているため、中小零細企業の数字が反映されにくくなっていますので全体的な状況はもっと深刻かと思われます。
投資しない国は必ず衰退します。
日・米・支の名目GDP(USドル)を比較すると、下のグラフのとおりです。
くどいようですが、名目GDPが減ると税収も減ります。
お隣の国が軍事力を増やすことができるのは名目GDPが成長してきたからです。
一方、我が国は名目GDPが増えていないために、即ちデフレのために、国防力のみならず防災力までもが減退しています。このような状況で、「外敵の脅威」や「自然の脅威」から国民を守ることができるのでしょうか。
なのに・・・何の疑いもなく家計簿的発想で行政が運営され続けています。
いわば、今の日本は「自滅の脅威」に曝されているのです。