小池都知事が知事給与を半減するための条例改正案を都議会に提出されるとのことです。
知事給与の半減は都知事選挙の際に公約した政策の一つだったようですので、公約通りの条例改正案の提出ということなのでしょう。
それを小池都知事は「都民の利益のため」と言っているようですが、果たしてそうでしょうか。
全国各地に改革派と称する首長がおられますが、「公務員の削減」及び「その給与の削減」、あるいは「首長自身の給与削減」及び「退職金の廃止」などなど、いわゆる「身を切る改革」論はこの手合いが必ず陥るレトリックです。(因みに、議員にはもともと退職金も年金もありませんので・・・)
要するに、この手合いに一貫しているのは緊縮財政絶対主義なのです。
そして有権者のルサンチマン(社会に対する鬱屈した嫉妬)を煽って票と支持を獲得したい、というポピュリズム政治がそれに火をつけます。
入るを量りて出ずるを制す、は政治行政においては必ずしも善ではありません。むろん、善のときもあります。その時々の経済情勢によって変わります。
常に緊縮財政が善、という人たちは「都民の利益とは何か」ということを真剣に考えたことなどないのでしょう。
政治行政の目的は経世済民です。これ以外にありません。経世済民とは、国民の安全を守り、国民を豊かにすることです。「豊かにする」の定義は「所得を増やすこと」です。明確に「豊かさ」を定義している議員や政治家を私は他に知りません。
では、所得ってどうやって増やすの?
現在の多くの政治家たちが、この質問に答えられない。
だから日本は下のグラフのとおりの状況です。
※GDPとは一国の所得(支出=生産)の総額です。名目というのは金額ベースということです。
1997年以降、日本国民の名目GDP(所得)は右肩下がりで、未だリーマン・ショック以前の水準にも至っていません。いわゆるデフレ状態です。
要するに私たち日本国民は1997年以降、貧乏になっているのです。
注目すべきはバブルが崩壊しつつも1997年までは国民の所得は増えていたことです。
なぜ増えていたのかというと、1997年までは政府が適切な財政運営を行っていたからです。ここでいう適切とは、緊縮財政をしなかった、という意味です。
もしも1997年以降の緊縮財政(消費税の増税を含む)がなかったら、おそらく今頃、日本の名目GDPは1000兆円を突破していたかもしれません。そうすれば政府の負債残高(対GDP比)も大幅に減っていたことでしょう。
考えてみるに、「公務員が多すぎる」とか「公務員の給料が高すぎる」とかの、いわゆる公務員批判が為されるようになったのは1997年以降のことではないでしょうか。
少なくとも、バブル時代にはありませんでした。あの時代の公務員給与は民間のそれよりも安かったですから。
デフレに突入し国民の所得が頭打ちとなって下がりはじめ、かつデフレの長期化で下げ止まっている結果、公務員の給与は相対的に高い、という不満(ルサンチマン)が社会に蔓延していったようです。
すると政治家がその国民ルサンチマンを煽って緊縮財政絶対主義を標榜し、あらゆるコストカットを断行する。それがよけいにデフレを増長し、名目GDPを押し下げ、国民の所得と税収を下げていく。するとまた国民ルサンチマンが高まり、それを政治家が煽る・・・
といったスパイラルです。
因みに、政治家は印象ではなく数字で語るべきだと思いますので、下のグラフをお示ししておきます。
労働人口に占める公務員数をみますと、日本ほど公務員の少ない国はありません。このグラフには、いわゆる天下りもカウントされています。
むしろ今や、公務員が少なすぎることの弊害すらでています。
もちろん、私は「行政に全く問題がない」などという気はさらさらありません。行政にも議会にも改善すべき課題が様々に山積しています。
その一方、意外と世間では知られていませんが、大震災(震度5強以上)などの自然災害が発生した際、公務員は被災した自分の家族を置き去りにしてでも登庁し、もしくは現場に赴き行政職員として復旧復興にあたることが義務付けられています。
なのに「公務員(正規職員)を減らし、それを派遣社員に変えて行政経費を削減しろ」という人たちがいます。こういう人たちは経世済民の意味を理解していない人たちです。当然のことながら、経世済民には有事対応も含まれているのです。
話を戻しますが、9月5日に厚生労働省から発表された毎月勤労統計調査によりますと、実質賃金指数は下のグラフのとおりです。
7月の実質賃金指数は、95.3(2010年=100)です。これは、2010年には100個のパンを買うことができたのに、現在は95個のパンしか買えない状態ということです。
1997年以降、我が国の実質賃金はなんと約13%も下落しています。これこそがルサンチマンの原因ではないでしょうか。
要するに、無知な政治家が選挙目当てに国民ルサンチマンを煽って間違った政策を断行する。結果、国民を豊かにする「経世済民」という目的が達成されない。
政府の支出も需要(GDP)項目の一つです。インフレ状態であるのならまだしも、どうして需要不足というデフレ状態で緊縮財政を行うのか・・・
経世済民の目的を達成するためにデフレを解消し、国民が豊かになっていけば国民に蔓延るルサンチマンは払拭されていくはずです。
その意味で、現在の国民ルサンチマンをつくりだしているのは政治そのものなのです。
国民経済を理解できない政治家は去れ!
国民経済を理解していない政治家に行政運営を託すということは、医師免許も医学知識もない人に自分の命にかかわる大手術を委ねるようなものです。