故・橋本龍太郎内閣からはじまった我が国の緊縮財政路線。
以降、1998年から今日に至るまで我が日本国は依然としてデフレ経済の直中にあります。
デフレの長期化により国民の所得(賃金)はなかなか上昇せず(むしろ下落している)、国民世論にはマントルのようなルサンチマン(社会に対する鬱屈とした嫉妬)が蓄積されてきました。
そのため、「公務員は楽して高い給料をもらっている」的な誤解的不満が国民感情として醸成されてしまいました。もっと早い時期にデフレを脱却して国民の所得(賃金)を毎年着実に増やしていれば、このような公務員批判は生まれなかったでしょう。現に、バブル景気時代には公務員の給与批判などありませんでしたから。
その点、公務員と公務員以外の国民とを給与面においてある種の対立関係に陥らせたのはデフレを放置した政治の責任です。
なのに多くの政治家たちは、デフレを脱却するどころか、むしろこうした国民ルサンチマンを煽り、ひたすら公務員をたたき、公共事業悪玉論を展開して緊縮財政を訴えてきました。
デフレ期の緊縮財政が余計に国民経済をデフレ化し、国民所得を押し下げ税収をも減らしてきました。赤字国債の発行残高が増えたのはそのためです。
加えて、緊縮財政(財政均衡主義)は新古典派経済学の基本思想であり、入省入庁後に留学渡米するエリート官僚たちが悉くこの新古典派経済学に洗脳されて帰ってくることもあって、政府内には緊縮財政主義(財政均衡主義)が根強く跋扈しています。
あまつさえ許せないのは、無知な政治家やマスコミ、省益優先の財務省らがこぞって「公共事業のやり過ぎで日本は借金大国になった」というウソを垂れ流してきたことです。
そもそもからして、赤字国債で公共事業はできないだろうに。赤字国債は税収不足を補うために発行される国債であり、公共事業のために発行されるのはあくまでも建設国債です。
上のグラフの通り、1997年以降(デフレ以降)増えているのは建設国債でなく赤字国債です。それに彼らの言う「国の借金」も正しくは「政府の負債」です。我が国は世界最大の対外純資産国ですので、「国」と言うのであれば「国の借金」でなく「国の資産」です。
即ち、我が国政府の負債は、公共事業のやり過ぎなどではなく、デフレによる税収不足によって山積したものです。では、なぜデフレなの? それは、緊縮財政の名のもとに公共事業を行ってこなかったからです。信じられないかもしれませんが、むしろ公共事業を行ってこなかったことが財政悪化(政府負債対GDP比率の悪化)をもたらしてきたのです。
それだけではありません。
日本は世界最大の自然災害大国です。
世界で発生する自然災害のなんと60%は東アジアで発生しています。また、日本の国土面積は世界のわずか0.28%程度しかないのに、世界で発生するマグニチュード6.0以上の地震の20%は日本及びその近辺で発生しています。
長い歴史でみても、例えばヨーロッパ人のほとんどが戦争や殺戮で亡くなっているのに対し、我が国ではその多くが自然災害で亡くなっています。
であるからこそ、我が国では、いかに地震につよい建物をつくるか、あるいは川が氾濫しないようにどのように土木工事を施すのかなどの高い技術やノウハウが蓄積されてきたのです。
そしてそれらは、現在の土木・建設業者とその職人さんたちに蓄積されているのです。
なのに我が国は、橋本内閣以降、現在に至るも容赦なく公共事業費をぶった切ってきました。その結果、蓄積されてきた技術ノウハウが毀損され続けています。
このようなことで、国民を自然災害から守る、という防災安全保障を確立することができるのでしょうか。できるわけがありません。
先の熊本・大分地震であれ、東日本大震災であれ、阪神淡路大震災であれ、災害の際、真っ先に現地に駆けつけて復旧作業を行うのは自衛隊でもなければ消防隊でもなく、ましてや警察でもありません。そうです。地元の土木・建設業者なのです。
よって彼らは単に公共事業で飯を食っているだけではなく、国民の防災安全保障を担っているのです。
上の二つのグラフが示しているとおり、我が国の防災安全保障能力は明らかに毀損しております。
地方行政たる川崎市においても、公共事業費は削減され続けてきました。このことは川崎市のインフラ「力(りょく)」が低下していることを意味しています。
最近、川崎市では入札の不調が相次いでいます。
これは、国家的規模での長年にわたる公共事業費の削減で、土木・建設事業の供給能力が毀損され続けてきたことによって、設計単価が実勢価格に合わなくなってしまった結果です。
一方、本日の日本経済新聞(電子版)に、次のような記事が載っています。
『経済対策、増額要求相次ぐ 自民が各省要望とりまとめ
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H2Z_Q6A720C1PP8000/
自民党は20日、国土交通、経済産業などの主要部会で経済対策の各省要望をとりまとめた。新幹線の整備加速やインフラの耐震化といった公共事業が目立ち、出席議員からはさらなる増額要求が相次いだ。(後略)』
どうでしょう? いかにも公共事業がまるで悪いものであるかのようなニュアンスで記事にされています。
かつて公共事業が問題だったのは、政治家たちがそれで政治資金集めをしたからであって、べつに公共事業そのものが悪かったわけではありません。
日銀の量的緩和によって、民間金融機関の当座預金残高は今や約300兆円にまで及んでいます。しかし、長引くデフレで民間企業の資金需要が乏しいために銀行の貸出しが増えずここに滞留しています。
長期金利がマイナスにまでなっている超低金利の今、政府こそがそれを借りて防災対策及び将来の経済成長に資するインフラ整備に投資する。それによって、デフレ脱却と国民の防災安全保障の確立という二つの目的を同時に達成できる絶好のチャンスです。
因みに、政府が少なめに見積もっているインチキなデフレギャップでは、その額をおよそ10兆円としているようですが、実際には20兆円ちかくのデフレギャップがあるともいわれています。
安倍総理におかれては、いかさまな「公共事業悪玉論」に怯えることなく、必要な公共投資を断固として実行してもらいたいと思います。
日本国民のために・・・