国民経済には逃れることのできない、いくつかの原則があります。
その一つは、全員が資産を増やすことはできない、という原則です。
日本の経済主体のすべてが資産を増やすことはできず、必然的に誰かの黒字は誰かの赤字になります。統計上、必ずそのようになります。
上のグラフは内閣府が発表している統計で、日本の全経済主体(非金融法人、金融機関、一般政府、家計、NPO、海外部門)の純貸付=資産増(+)と純借入=負債増(-)を時系列で表したものです。
このグラフを真横にして見てみると、必ず左右対称になります。誰かの資産増(+)は、必ず誰かの負債増(-)になるからです。
本来、正常な経済であるならば、借金をすべき経済主体は非金融法人、すなわち一般企業です。
例えば、企業が資金調達(借金)をして設備投資や技術開発投資を行う。その結果、新たな技術革新等を通じて生産性が向上していく。つまりは一人当たりの生産性(所得)が向上します。
要するに、企業が借金を増やす一方で家計が資産を増やしていくことになります。そして政府は±ゼロでトントン、というのが健全な経済状態です。
しかしながら、グラフを見ての通り、借金すべき経済主体であるはずの一般企業が黒字をため込んでいます。一方、それとは対称的に家計の黒字幅が縮小しています。
理由は簡単です。デフレにも拘わらず、政府が需要不足(デフレギャップ)を埋めようとしないため、企業が資金調達をしてまで投資しないからです。
そりゃあ、そうでしょう。儲かる見込みがないのに、わざわざおカネを借りて投資する企業などありませんから。結果、労働者の実質賃金が上がらず、ここ数年、家計は貯蓄を切り崩している有様です。加えて、名目GDPが成長しない(デフレ)状態が続いたことで、税収も減ってしまい政府の赤字も増え続けました。
上のグラフは、これらのことを雄弁に物語っています。
去る7月28日、川崎市は昨年度(2015年度)一般会計の決算見込みを示しました。歳入総額は6015億円、歳出は6023億円で、2016年度への繰り越し分を差し引いた実質収支は約2億円の黒字になった、と嬉しそうに発表しています。
行政の黒字は民間の赤字という国民経済の原則を知らないと、このようになります。
上のグラフは、川崎市民一人当たりの市民所得の推移です。
ご覧のとおり、2007年をピークにして下落の一途です。因みに1997年以降のもっと長いスパンでみると、一貫して下がり続けています。国民経済では、所得が減っていくことを「貧乏になる」と言い、所得が増えていくことを「豊かになる」と言います。
政治の目的は国民(市民)の所得を増やすことです。国民(市民)の所得を増やすと、自然、税収が増えプライマリー(財政収支)もバランスしていきます。
国民(市民)を貧乏にしておいて・・・
「行政は黒字です。僕ってすごいでしょっ!」と言われても・・・