過日の13日、英国保守党のテリーザ・メイ新党首が首相に就任しました。英国史上、故マーガレット・サッチャー氏以来二人目の女性首相となるそうです。
メイ氏はエリザベス女王からの任命を受けた後、首相官邸前で就任後初となる演説を行いました。
ロイターによると、新首相は英国のEU離脱決定を受け、国としての新たな役割を構築していくと言明したうえで、「国民投票を経て、われわれは未曾有の変化の時を迎えている。グレート・ブリテンだからこそ、われわれは困難に立ち向かっていける。EUを離脱し、国際社会において大胆かつ新しい、前向きな役割を築いていこう」と訴えたとのことです。
この報道を聞いたとき、「うーん、なかなかやるなぁ」という感想をもちました。
メイ新首相はもともと残留派でした。しかし、残留派でありながらも二分された国民国家を再統一し、かつEUからの離脱を進めていく、と述べているのです。
加えて首相は、貧困層の平均余命がより短いことや、アフリカ系国民に対してより厳格な刑事司法制度、男女の賃金格差、若年層の住宅購入が困難になっている状況などを挙げ、国民の多くが「激しい不公平」に苦しんでいる実態に言明したようです。
残留派だったメイ氏も、グローバリズムの弊害を適切に認識されていたのですね。
下の図は、英国で働くEUと非EU諸国からの非英国の国民の数を示しています。
オレンジ色の棒グラフは、EU加盟国以外の国から英国に流入した外国人労働者の推移です。時系列でみると、イラク戦争後の中東の混乱によって英国に流入してきたことが解ります。ただ、それでも最近ではほぼ横ばいとなっています。
一方、英国で働くEU諸国からの非英国の国民の数は増加し続けています。
これらは主として東欧諸国からの移民です。2004年以降、急激に増え続けています。そうです。2004年は東欧諸国がEUに加盟した年です。
因みにキャメロン前首相は、躍進する英国独立党への対抗上、移民流入を年間10万人までに抑えることを標榜したのですが、結局は毎年約33万人もの移民が流入することになってしまいました。その事実が国民投票に与えた影響はかなり大きかったものと思われます。人口比で換算すると、毎年70万人以上の中国人が日本国に流入してくるようなものですから。
結果、2004年以降の東欧諸国からの外国移民の受け入れ、2008年のリーマン・ショックと住宅バブルの崩壊、その後の緊縮財政という合わせ技(悪い意味での)によって英国の実質賃金は8%も下落してしまいました。
デフレで苦しむネイティブ英国人たちのなかに大きな不満が鬱積していったのもよく理解できます。
しかし一方、安価な労働力として流入してくる外国人労働者の存在は、英国に投資するグローバル投資家やグローバル企業たちの利益になりました。
この実質賃金の問題ひとつだけをみても、英国が「グローバリズムで投資利益を得ているエリート層」と「所得で稼ぐ一般英国民」とに分断されていたことがわかります。
先述のメイ新首相発言のごとく、貧困層の平均余命がより短いこと、男女の賃金格差があること、更には若年層の住宅購入が困難になっていることなどによって、英国民の多くが「激しい不公平」に苦しんでいる、という実態の背景にはこのグローバル化があるのです。
周回遅れでグローバル化を進めている日本国にとって、メイ新首相の試みは大いに参考となる価値ある挑戦だと思います。