昨年、政府の経済対策の一環として、各自治体においてプレミアム商品券事業が行われました。
川崎市でも平成27(2015)年9月1日から12月31日まで実施されました。
川崎市における発行総額は33億円(うち、国負担5.5億円)で、「1,000円券×12枚綴り=12,000円分」を、一冊10,000円で27.5万冊を発行しました。要するに10,000円で12,000円分の商品券を購入できます、という制度です。上乗せされているお得(2,000円)部分が国負担です。
最終的な利用総額は3,294,497,000円でしたので、利用率は100%に届かず、99.83%とのことでした。
3月31日付けの神奈川新聞の記事では、この事業による効果について『消費喚起総額12.6億円』という見出しをつけていましたが、これは川崎市当局が利用者アンケートをとった結果、商品券での支払い及び商品券での支払いにあわせ追加支出した現金等の合計が約12.6億円だったということをそのまま記事にしたものです。
神奈川新聞は川崎市当局の発表をそのまま記事にされたようですが、川崎市当局を含めて、こうした発表の仕方は読み手や市民に対して誤解を与えかねない、ということを指摘せざるを得ません。
まず、国民経済において「効果」といった場合、GDPの押し上げ効果であるはずです。即ち、その政策によって、GDPをどのくらい押し上げたか、です。
GDPを支出面でみると、
1.民間最終消費支出
2.政府最終消費支出
3.公共投資
4.住宅投資
5.民間設備投資
6.在庫変動
7.純輸出
の項目に分類されます。今回のプレミアム商品券は「1」の「民間最終消費支出」にカウントされます。
つまり今回のプレミアム商品券事業が、この民間最終消費支出をいくら押し上げたのか、それこそがまさに“効果”です。
どんなにプレミアム商品券が利用されたとしても(実際には利用率は100%を満たしていないですが)、民間最終消費支出を全体として押し上げることができなかったのなら、効果としてはゼロです。
例えば、毎月20万円の消費支出をしているAさんという川崎市民がいたとします。
このAさんは、1万円でプレミアム商品券を購入しました。即ち、1万2千円分の商品券が手元に入ります。Aさんは、この商品券を早速すべて使い切ったのですが、浮いた(得した)2千分を貯金にまわしたため、結局その月も総額で20万円の消費支出しかしませんでした。
さて、この場合、経済効果はいくらですか?
ゼロです。
Aさんが20万2千円の消費支出をしてくれた場合、要するに20万以上の消費支出をしてくれた場合のみ“効果あり”となります。
ここに所得移転系の経済政策の弱点があります。必ずしも実需に直結しないという弱点です。
上記の神奈川新聞の記事を読むと、あたかも12.6億円分のGDP押し上げ効果があったようになっていますが、結局のところ、本事業のGDP押し上げ効果が、いったいどのくらいあったのかは解らないのです。
それを知る一つの手掛かりが“消費者物価指数”です。
消費者物価指数はモノやサービスの購入が盛んになると上昇しますし、滞ると下降します。
では、昨年の川崎市の消費者物価指数をみてみましょう。
プレミアム商品券事業が実施された9月~12月は明らかに下がっていますね。
もう一度言います。川崎市内のモノやサービスの購入量が増えると、川崎市の消費者物価指数は上昇します。
現在は、確実に実需をつくることのできる政策が求められているのです。