『時代は再び第一次世界大戦前~日本よ、備えはあるか』
第20回
本年は年明け早々、イランとサウジアラビアが国交を断絶するという驚きのニュースが入りました。
昨日も述べましたように、我が国の原油輸入の約8割がホルムズ海峡を通過してきます。国際社会は両国間に対して緊張緩和の働きかけを行っているようですが、イランとサウジアラビアの間での緊張状態が高まり、つまり戦闘状態のような事態に至ることになればホルムズ海峡が封鎖されてしまう可能性があります。
そうなると、原油価格が上昇してしまうとの話ではなく、原油そのものが来なくなりますので、現在停止させている原子力発電所を稼働させないと深刻な電力不足が生じることになるでしょう。
遠くイランとサウジアラビアの問題であっても、私ども日本国にとって極めて重要な問題であることを痛感します。
近年、中東問題のみならず、ウクライナ問題や南シナ海問題などを含めて、世界各地において地政学リスクが高まりはじめたのは、アメリカ主導による安保体制が揺らぎはじめたからです。ユーラシアグループのイアン・ブレマー氏はこれを「同盟の空白」と言っています。
歴史的にみると、第一次世界大戦前から第二次世界大戦が終戦するまでの世界では(1900~1945年)、列強各国の軍事力はほぼ均衡していたために、いわば多極化した世界といってよい状況でした。
その後、1945~1990年はいわゆる冷戦時代に入り、米ソ二大大国によるいわば二極化した世界です。そしてソ連が崩壊したことにより、アメリカによる一極国際秩序が形成されました。
戦争や紛争による死者数を各時代ごとに比較すると以下のようになります。
多極時代(1900~1945年) ⇒ 6000万人以上
二極時代(1945~1990年) ⇒ 約2000万人
一極時代(1990~現在) ⇒ 数百万
このようにみると、世界にとっては一極時代が最も平和な状況であることがわかります。思えば、パクス・ロマーナと言われた時代も一極時代でしたが、ローマ帝国が崩壊して中世になったとたんに戦争や紛争が絶えない状況になりました。いわゆる暗黒の中世です。
むろん、少なければ人が死んでも構わないなどと言う気はさらさらありません。
かの福沢諭吉は、「政治は最も悪くないものの選択である」と言われました。となると、いずこの国が主導するのかは別として、一極秩序のほうが世界にとってはより平和な状態であるといえます。
であるがゆえに、日本の自衛隊は以下の3つの役割を担ってきました。
1.存在・抑止
2.即応・対処
3.準備・定礎
1の「存在・抑止」とは、アメリカ主導の一極秩序を維持するために、抑止する力を存在させ、一極秩序やグローバル・コモンズ(共同防衛すべき利益線)を揺るがしかねない戦争や紛争を抑止することです。
2の「即応・対処」とは、紛争やテロなど一極秩序やグローバル・コモンズを壊しかねない事態に対しては即応力をもって対処することです。
3つめの「準備・定礎」は、一極秩序が崩れたときに備え準備すること。そして新たな国際秩序に適応できる礎を築いておくことです。
我が国軍たる自衛隊は、戦後一貫して1~3の役割をその時々の状況に応じた配分によって担ってきました。
昨今の世界情勢(同盟の空白)をみると、いよいよ「準備・定礎」のウエイトを高めなければならない時期なのかもしれません。むろん、まだまだアメリカの一極秩序はつづく、と予測する識者もおられます。