本日は、公的サービスの民営化について考えたいと思います。
『空港・水道…商機広がる PFI、成長戦略の一翼担う http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ25ILN_V20C16A1TI1000/
コンセッションを含めたPFI(民間資金を活用した社会資本整備)は、政府の成長戦略の一翼を担う。空港や道路、水道など利用料収入を伴う国内のインフラは185兆円規模に上る。国や自治体にとってはインフラの維持や整備の財政負担が軽くなり、企業はインフラ運営という大きな商機が生まれる。(後略)』
世界的なグローバリズム経済の普及拡大によって、公的サービスの民営化の流れが強まっています。
競争意識のない公務員が運営するよりも、コスト意識のある株式会社に運営させた方が、より市民サービスの拡大充実が見込まれる、という触れ込みで、なんでも日本政府の成長戦略の一環だそうです。
加えて、いわゆる新自由主義派(グローバリズム派といってもいいし、新古典派といってもいいです)とされる首長さんを頂く地方自治体においても、公共インフラを民間に運営させようという動きが広まっています。
我が川崎市議会にも、「公務員は無駄の極み、コスト意識の高い株式会社こそが正義」と言わんばかりの主張をなさっている議員さんもおられます。
しかしながら・・・
コストには経済的な側面と安全性の側面があります。安全性を無視し、ただただ経済的なコストカットのみを追求した結果として、国民が危険に晒されたり、あるいは命が奪われたりしている事件や事故が相次いでいます。
「株式会社はリスクに合わないコストカットを避けるので安全性は絶対に損なわれない」と豪語していた民営化論者はいったいどこへ行ってしまったのでしょうか。
断っておきますが、私はけっして株式会社を否定しているわけではありません。株式会社には株式会社の目的と役割があり、行政には行政の目的と役割がある、と述べたいだけです。
例えば、川崎市が水道事業を民営化したとしましょう。
民営化により、川崎市の行政コストは下がります。というか、それが目的です。残念ながら、新自由主義派の皆さんの思考はここで終わります。
ところが、ここから先が重要です。
川崎市は当初の予算よりも水道事業費用を削減することができ、新たに参入した「民間水道会社」も間違いなく利益を上げることができるのですが・・・
水道事業の運営権を購入した民間水道会社は、新たな付加価値を創出するわけではありません。ここがポイントです。
水道事業が民営化されたからといって「よしっ、これまで以上にもっと水道をつかおう!」という間抜けな川崎市民はいないでしょう。
つまり、「川崎市の歳出削減分」と「民間水道会社の利益分」により、必ず誰か損をする存在が現れるということです。
南米やフィリピンなどで行われた水道事業の民営化では、「料金の引き上げ」という形で一般消費者が普通に損をしました。そのような事例もありましたので、きっと川崎市長は「水道料金の上限を決める権限を市に残すのでダイジョブですぅ」とか、言うことになります。
料金に上限が設定されると、一義的には一般消費者ではなく別の誰かが損をすることになります。まずは、民間水道会社で働く職員のリストラや給与削減が行われます。結果、この民間水道会社で働く従業員の士気の低下は避けられないでしょう。
それだけではありません。料金に上限があり、売上を増やせないとなると、あとは伝家の宝刀「安全性無視のコストカット」です。
道路公団の民営化でもそうでしたが、公共インフラの運営を任された株式会社がコストカットを追及すると、必ず品質や安全性にツケが回ります。中央自動車道の笹子トンネルでの事故はその典型だと思います。
下の二つのグラフを見てください。
川崎市の給水世帯数は一貫して増えてきましたが、一方の配水量は逆に減っています。
※2009年度から2010年度にかけて配水総量が増えているのは、それまで算入していなかった工業用水向けの供給を2010年度以降に算入するようになった、という統計上の理由です。けっして市民の利用量が増えているわけではありません。
給水世帯数が増えつつも、配水実績が減っているのは、節水技術の発達や長引くデフレによる需要不足があるものと考えます。
こうした中で水道事業を民営化した場合、請け負った民間水道会社はどのようにして利益を追求するのか、までを考えなければなりません。しかも請け負った株式会社が外資系企業であったならどうなるのかまでをも含めて。
くどいようですが、株式会社の目的は利益の最大化です。そしてそれは正しいことです。株式会社は経済社会にとって欠かせない役割を担っています。
そのうえで、公共インフラの運営を株式会社に託すことの意味を考える必要があるのです。