『時代は再び第一次世界大戦前~日本よ、備えはあるか』
第30回(最終回)
昨夜から降り続いた雪により、川崎市にも積雪による被害がでております。私の住む多摩区では、明け方から3,700世帯の地域で停電が発生しています。(午前8時前には復旧したようです)
故・渥美清さんの演じる寅さんがよく言ってました。
「的屋殺すにゃ刃物はいらぬ、雨の三日も降ればいい」と。
「日本の都市機能を麻痺させるためにゃミサイルはいらぬ、雪の三日も降ればいい」というところでしょうか。
日本のインフラはテロ・ゲリラを想定していないためか、極めて脆弱です。
さて、意外と知られていませんが、日本国内には米軍基地のほか国連軍基地が存在しています。私の住む神奈川県には横須賀、座間の2か所、沖縄県には嘉手納、普天間、ホワイトビーチの3か所、そして長崎県の佐世保、それから東京都の横田です。これら7か所の基地は、むろんアメリカ軍基地にもなっていますが、昭和25(1950)年から3年間にわたって戦われた朝鮮戦争以降(朝鮮戦争は未だ休戦状態であり終結していない)、国連軍基地となって休戦状態を監視しています。
これら7か所の基地には時折、アメリカ軍以外の艦艇や航空機が国連旗を掲げて来訪しています。かつて座間基地には国連軍司令部が置かれていました。しかし韓国政府の強い要望があり司令部は韓国の龍山(よんさん)に移り、現在は横田基地に後方司令部が置かれています。
かりに朝鮮半島の休戦状態が破られると、1950年代当時の国連決議や、朝鮮国連軍として参戦した16か国による共同政策宣言が引き続き有効となり、休戦時に再結集を約束した朝鮮国連軍参加国の多くが参加することになります。
つまり、休戦が破られたことを確認した国連軍司令部は、再び国連軍(多国籍軍)をその指揮下に組み込んで戦闘ができるように準備しています。我が国もこの16か国の朝鮮国連軍に名を連ねています。よって朝鮮有事の際には、我が国も朝鮮国連軍参加国として関与することになります。
このようにみていくと、我が国が朝鮮半島に対して軍事的にどのような関わりをもっているのかが、よく理解できると思います。
朝鮮有事が、テロ・ゲリラによる内乱状態から始まるのか、それとも本格的な戦闘状態から始まるのか、あるいは陸上部隊同士の衝突から始まるのか、ミサイル攻撃によって始まるのかは全く予測が不可能です。
いずれにしても朝鮮有事の際には、日本国内にある各種基地が戦闘遂行にあたっての重要拠点となりますので、北朝鮮はこれらの基地を攪乱しようとするでしょう。また日本国民を混乱に貶めるためのテロ・ゲリラ攻撃をしかけてくることは明らかです。当然、脆弱なインフラ施設もターゲットになります。
とはいえ、テロ・ゲリラへの対処というのは口で言うほど簡単ではありません。
例えば、平成8(1996)年に北朝鮮の26人のゲリラ部隊が韓国東部に上陸するという事件が発生しました。この26人の小部隊を駆逐するために韓国は6万人の兵員を50日間にわたって投入しました。それでも26人全員を掃討しきれていません。
日本の場合、まずは警察が対処することになりますが、そのような混乱時に警察だけでどこまで対応できるでしょうか。警察の組織活動というものは、基本的には都市が正常に機能していることが前提です。
以前にも述べましたように、1970年代以降、歴代の日本政府は自衛隊に対して治安行動(テロ対応)に関する訓練をさせていません。繰り返しますが、韓国では僅か26人の北朝鮮ゲリラ部隊に対して6万人の兵員を50日間投入しました。北朝鮮は100万人を超える陸上兵力、そして12~15万人の特殊部隊(ゲリラ部隊)を有し、その一部は既に日本国内に潜伏しているとまで言われています。
北朝鮮問題は今そこにある現実的な「日本の脅威」なのです。
この連載は、いかに「備えある日本」をつくることができるか、をテーマにしてきました。
国の備えには、国防のみならず、防災、エネルギー、食糧、治安維持、あるいは医療介護などなど様々ありますが、この連載では主として国防や治安維持における備えについてごく簡単に述べました。
また前半部ではそれを支えるための経済政策を主題にしましたが、現在の経済政策の敵はグローバリズムという新たな帝国主義であり、これを打破しないと日本の国力はあらゆる面で疲弊していくばかりだからです。
そうした中、EUにおける難民問題でも明らかなようにユーロ・グローバリズムが融解しはじめたことはまことに注目すべき事象で、我が国もこれ以上グローバリズムに飲み込まれないようにしなければなりません。その意味で、今の日本経済における「今そこにある危機」はデフレなのです。
そして、もう一つこの連載で強調したかったことは、「平和を語る」ということはまさに「軍事を語る」ことである、ということです。
戦後日本の悪しき特徴の一つとして、軍事=戦争=悪、という概念が定着してしまい、まともな安全保障議論が成立しませんでした。今もって成立していません。まことに残念なことです。
この連載で繰り返し述べてきたとおり、日本はアメリカをはじめとした友好国が維持しようとしている国際秩序(国際平和)に積極的に協力していくことが最も重要です。そのうえで、今そこにある現実的脅威に対応していかなければなりません。なぜなら、我が国が自己の領土や、我が国に直接的に関わる経済権益のみにばかり固執し関心を寄せていては、国家として諸外国からの信頼を勝ち得ることができないからです。
よって、国連加盟国である我が日本も、国連憲章の趣旨を誠実に履行するため、積極的に集団安保に参加して世界平和に寄与貢献すべきです。そのうえで、今そこにある現実の脅威に的確に、そして冷静に対処することが必要です。