『時代は再び第一次世界大戦前~日本よ、備えはあるか』
第17回
国民の安全保障(防衛のみならず)を維持しつつ、所得を増やすことにより国民生活を豊かにしていく、という国民国家にとって、グローバリズムは百害あって一利なしです。
繰り返しになりますが、グローバリズム政策の基本は緊縮財政と構造改革です。
緊縮財政、あるいは規制緩和や公共サービスの民営化といった構造改革は、グローバル投資家やグローバル企業家のビジネスチャンスを拡大します。
例えば緊縮財政は、彼らの理想とするデフレ状態を維持してくれます。また、構造改革は既存のビジネスや公共サービス分野への新たな参入を可能にし、その参入した事業者はもちまえの低賃金による価格競争をしかけて既存のパイから所得を奪っていきます。このことがまた更なるデフレ化に拍車をかけます。
むろん、緊縮財政も構造改革もインフレ期や旧ソ連のような極端に生産能力の低い国などには有効な政策です。ただ、デフレ期にある日本には有害である、ということをくどいように述べているわけです。
ところが昨今、そうしたことを理解せず、公共サービスの民営化(株式会社化)こそがすべて・・・みたいな思慮深くない新自由主義者とやらが地方行政の首長や地方議会にも跋扈しています。おそらく彼らには、自分自身がグローバリズムの手先になっているという自覚すらないでしょう。
川崎市も例外ではなく、緊縮財政思想の蔓延により、とりわけ公共インフラへの投資やメンテナンス費用が削減されています。
「川崎市の公的固定資本形成」というのは、簡単にいうとGDPに計上された公的機関による公共事業費の総額(用地買収費などを除く)です。川崎市の公的固定資本形成が増えていないということは、川崎の公的な生産資産が新たに蓄積されていないということです。
また、「土木費の推移」は一目瞭然ですが、土木費は主として街路事業費、公園整備費、下水道施設費、道路橋梁費、港湾整備費、土木管理費のことです。これらの費用がメンテナンス費用も含めて削減されているということは、川崎市のインフラがことのほか老朽化しているということです。
インフラのメンテナンス費用の縮減は、私たち国民生活にとって極めて危険なことです。
例えば、渡っている橋が急に崩落したり、水道管が突如破裂したりするかもしれません。あるいは子供たちが公園で遊んでいる最中に遊具が壊れてしまえばケガをします。穴や亀裂が入った車道を放置すればいずれ事故が起きるでしょう。
平成24(2012)年に、中央自動車道上り線の笹子トンネルで天井のコンクリート板が落下して、走行中の車複数台が巻き込まれて9名の方が死亡するという事故が発生しました。
個人的な憶測にすぎませんが、この事故も民営化の弊害であった可能性があります。株式会社はできうる限りのコストカットで利益の最大化を図ります。目視のみの安全確認に変わってしまった理由は、民営化前のメンテナンス費用をさらに縮減させるためにあったのではないでしょうか。
さかのぼれば、姉歯事件も規制緩和の産物でした。
といって、当然のことながら株式会社を否定する気はさらさらありません。
大切なことは、株式会社には株式会社の役割があり、公的機関には公的機関の役割があるということです。採算が合わなくとも安全のためには、何が何でも行政が担わなければならない分野がある、というだけです。
思慮深くないグローバリズムの手先議員たちは、いずれ地方自治体の上水道事業も民営化しろ、などと言ってくるに違いありません。しかも外資規制なしに。
自分の街の上水道事業が、アメリカやシナの投資ファンドに買収されることがそんなにも嬉しいことなのでしょうか。