日本政府は、去る11月8日、我が国が所有する『朝鮮王朝儀軌』などの図書1205冊を韓国側に「返還」することで韓国政府と合意した。
日本政府がこうした合意を図った背景には、「韓国併合」が不当不法なものであった、という誤った事実認識と、外交における原則の無視という反国家的無謀があるからにほかならない。
日本所有の朝鮮文化財については、本年8月10日の菅首相談話で「日本が統治していた期間に朝鮮総督府を経由してもたらされ、日本政府が保管している朝鮮王朝儀軌等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれらをお渡ししたい」と述べられていることを踏まえているとの見解もある。しかしこの「お渡し」は韓国側の態度によって不可能となった。
第二次世界大戦後、サンフランシスコ講和条約で日本は韓国の統治権を放棄した。
日本は併合時代に莫大な国費と民間資金を投入して、発電所や道路、あるいは教育機関など、朝鮮半島の様々なインフラを整備した。終戦後、日本が朝鮮半島に残してきた資産は、民間資金を含め12億5000万ドル(GHQ試算)で、現在の通貨価値に換算すれば約80兆円にのぼる。昭和20(1945)年12月6日の「米軍政法令第33号」によりこれら全ては没収されてアメリカ軍政庁の所有となり、のちに韓国政府がこれらの委譲を受けた。韓国は没収された在韓日本資産の相続人なのである。
サンフランシスコ講和会議に出席を拒否された韓国との国交は、GHQの斡旋により昭和26(1951)年10月20日にはじまり、以後十数年にわたって続けられた。ようやく昭和40(1965)年、「日韓基本条約」(以下、基本条約という)と「財産及び請求権に関する問題解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(以下、経済協定という)が調印され、新しい両国関係の基礎が確立した。この協定において、日韓双方はそれぞれの請求権について放棄し、請求権問題が「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」している。
しかるに韓国政府は菅首相談話にある「お渡し」を「返還」と翻訳した。これは請求権に基づく取り返しという意味合いである。つまり韓国は基本条約・経済協定を公然と蹂躙したのである。今回の「返還」を実行するならば、日本政府も基本条約・経済協定を無効化する韓国と立場を同じくすることになる。福山哲郎官房副長官は本年8月22日に NHK番組において「個人補償や求償権の問題は首相談話の中で認めるつもりは一切ない」と当然の理を表明している。そうであれば、基本条約・経済協定を反古にすることとなる菅談話の「朝鮮図書案件」履行は不可能になったといわねばならない。
もし日本政府が基本条約・経済協定を廃棄するに等しい立場をとるのであれば、請求権問題の基礎にあるサンフランシスコ講和条約や、その他の第二次世界大戦終結のために結ばれた諸外国との条約を見直し、各国と国民が放棄した請求権のみならず、日本と国民のそれら諸国に対する請求権も回復されなくてはならない。日本政府はそのような暴挙を敢えてなすのであろうか。
また、今回の図書の「返還」をもって、韓国からのいわゆる文化財「返還」要求が収束するとは到底信じられない。現に韓国は「返還されるべき文化財」は4000点にものぼると主張している。民間所有の物も対象になることは、既にホテルオークラに対して所有文化財の「返還」が要求され、ホテルオークラ側は日本政府の同意があれば「返還」に応じると報じられていることでも明らかである。このような相手と、自らすすんで基本条約と経済協定で確立した請求権放棄の原則を無視した取り決めをすれば、先方のさらなる増長を招くことは必然である。
しかも、韓国は壱岐・安国寺から盗まれたことが明らかな高麗版大般若経を盗難の翌年の平成7(1995)年に平然と国宝に指定するという暴挙を敢えてしている。原則を無視し、かつ無法を放置するのは、昨今あい続いた主権侵害行為である中国による尖閣諸島への侵入や、ロシア大統領による国後訪問に、毅然たる対処をなし得ないのと同種の過ちである。
我が国が韓国を併合したことの合法性についてだが、併合は明治43(1910)年、我が国の寺内正毅統監と大韓帝国の李完用首相が調印した「韓国併合に関する条約」(以後、併合条約という)によって成立した。併合にあたり、我が国政府はアメリカ、イギリス、ロシア、フランスなど、当時の国際社会において主要な地位を占めていた国々に対し、正式な外交ルートを通じて韓国併合の是非について打診をしたが、異議を唱えた国は一国も存在しなかった。
なぜなら当時、独立国として主権を維持することができない韓国を、主権国家として自立していた日本が統治することが東亜の平和と安全保障にとって必要であるという国際社会の共通認識があったからである。また、併合と植民地化ではその概念が全く異なり、国際社会は日本による韓国の「併合」と理解していたことも重要である。要するに韓国併合は当時から合法かつ正当であり、韓国併合につき、日本が韓国に対して「謝罪的行為」をなす理由は何もないのである。
両国間の友好関係は、お互いが締結した条約、および国際法に基づいて構築されなければならない。
因みに、占領憲法である日本国憲法(第98条)においてさえ、「日本国が締結した条約及び国際法規は、これを誠実に遵守する」ことが謳われている。また、我が国は外交政策を遂行するにあたっては、国際法規ならびに各国と結びし条約を誠実に遵守してきた誇るべき実績を有している。
今回の日本政府の対応は、これまでの我が国の国際法規遵守の実績を踏みにじり、かつ日本国憲法第98条に反する行為である。
韓国は、我が国の「謝罪」に対して、これをもって過去の清算を完了する旨を何度も発言しながら、ただの一度も履行したことがない。今回の文化財「返還」は、今後果てしなく続く韓国による我が国・国民所有文化財に対する略奪行為の手始めであり、それを正当化するものである。
よって、政府とその政府に信任を与えている民主党に対し、我が国が所有する『朝鮮王朝儀軌』などの図書1205冊に関わる韓国との合意を速やかに撤回するよう強く求める。