先般、ロシアを訪れプーチン大統領との日ロ首脳会談を終えた安倍総理は、11月に予定されているAPEC(アジア太平洋経済協力)の首脳会議(ペルーで開催)に合わせて会談し、12月には総理の地元・山口県長門市で改めて会談することで合意したことを明らかにされました。
これからの我が国の外交にとってプーチン大統領との関係は極めて重要になってくるものと思われます。
残念ながら日本の多くの国会議員や識者らは、既に米国が世界の警察官を担う意志を喪失している現実を受け入れられずにいますが、あきらかに米国の国際社会における軍事的プレゼンスは低下しています。
イラク問題でもシリア及びISIN問題でも米国は何もせず(イラクには軍事顧問団を派遣しただけ)、ウクライナ問題でもロシアに対してほとんど効果のない経済制裁を施しただけ。
南シナ海でもシナの挑発行為及び拡張行動を阻止できず、尖閣問題では日米安保の従来解釈をひたすら繰り返すのみです。
そうした米国による一極秩序の退潮に対して、ロシア、シナ、イラン等のいわゆるリビジョニスト国家が新たな国際秩序づくりに動き出しています。
これらリビジョニスト国家の軍事投資と比べると米国の国防予算は相対的に減少しています。
米国は、世界の警察官という意志を既に喪失しつつも、①地域的覇権国出現の阻止、②グローバルコモンズ(国際的公共財)へのアクセス保障という二つの世界戦略をとりあえずは維持しようとしています。
しかし、リビジョニスト国家は領域支配能力を徐々に高めつつあり、それを困難にしています。
例えばシナは、長距離精密誘導兵器、対衛星兵器システム、サイバー兵器などを組み合わせて接近阻止(A2)・領域拒否(AD)を強化しています。
冷戦期に対ソ関係が悪かったシナは、その北(ソ連)への憂もあり南シナ海や東シナ海等への南進政策など考える術もありませんでしたが、今やロシアとの関係を良好にして北への憂いを払拭し、南進政策をあからさまにしています。むろん、世界の警察官としての意志を喪失した米国による軍事的プレゼンスの低下がそれを後押ししています。
こうした現実をみるだけでも、
「尖閣を守るためには集団的自衛権による日米同盟の深化が必要だぁ~」
という理論が、いかにお粗末なものかがわかります。
国家の安全保障を確立するために必要な軍事の役割には次の三つがあります。
1.存在・抑止(現国際秩序の維持)
2.適応・対処(現国際秩序の脅威の除去)
3.準備・定礎(次なる国際秩序への準備)
その時代によって1~3のウエイト(比率)は変わります。
むろん、これまでの日本は1と2の比率を高くしてきたわけですが、いよいよ3の役割を強化すべき局面を迎えています。
まさに新たな戦略をもって対ロ関係の再構築を図っていくときだと思います。日ロの接近を嫌がるのは何といってもシナでしょうし。
経済面での日ロ協商は、軍事面での「準備・定礎」の役割に大きな影響を与えるはずです。