例えば人口衛星をロケットで打ち上げる際、地球の重力を振り切るために必要な地表における初速度のことを脱出速度というのだそうです。脱出速度を充分に確保できないと、ロケットは大気圏を脱出することができず地表に逆戻り。つまり失速して墜落してしまうわけです。逆にその速度を確保できれば大気圏を脱出して人口衛星は永久的に大気圏に戻ることなく宇宙に放たれます。
宇宙物理学では、その速度を 約 11.2 km/s(40,300 km/h)としています。
内閣官房参与の藤井聡先生は、デフレ状態(需要不足)を大気圏に、財政出動(需要創造)を脱出速度に例えられ、約11.2㎞/sの脱出速度を財政出動規模にすると約20兆円(真水)であるとされています。
デフレギャップ(潜在GDP-実質GDP)の政府試算方法が、竹中構造改悪時代にかなり低い数字で算出されるように変更されてしまったことを踏まえての数字かと思われます。
下のグラフは現在の政府が試算する、即ち竹中モデルのデフレギャップです。
藤井先生をはじめ、政府・与党内の脱出速度確保派の方々の意見を受け入れて、安倍総理は6月1日の記者会見で次のように述べられたのだと思います。
「今こそアベノミクスのエンジンを最大にふかし、こうしたリスクを振り払う。一気呵成に抜け出すためには「脱出速度」を最大限まで上げなければなりません。アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか。これが来る参議院選挙の最大の争点であります。」(記者会見抜粋)
結果、総理は参議院議員選挙に勝利したのです。
ところが・・・
『経済対策、財政支出6兆円に増額 政府が骨格
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS25H7G_V20C16A7EE8000/?dg=1
政府は25日、来月2日にもまとめる経済対策の骨格を固めた。焦点となっていた国と地方の財政支出(真水)は今年度2次補正予算や来年度予算案などの数年間の予算総額を6兆円程度に積み増す方向で調整する。
結局、真水(脱出速度)は6兆円規模に留まる、とのこと。
日本経済新聞社が「増額」と表現しているのは、もともと財務省が真水を3兆円規模程度に抑制しようとしていたからです。
当初、経済対策規模は20兆円規模と報道されていました。これに対しマスコミらは例のごとく「無駄な公共事業がぁ~」と囃し立てました。
それを受けて、真水(財政出動)は3兆円で残りは財政投融資などの民間への融資、という話しにすり替わることになりました。そして結局は、6兆円の真水で落ち着こうとしています。
財務省は、はなからこの程度の規模(6兆円規模)で収めようと画策していたのではないでしょうか。そのために「経済対策は20兆円規模」と、最初はいかにも大規模であるかのような印象を与える報道をさせて世論を煽り、一旦は真水規模を縮小させる。そして、落としどころとして6兆円規模にする。という財務省の戦略だったような気がします。むろん、個人的勘ぐりです。
くどいようですが、財政出動は一時的な効果しかない、というマスコミ報道は嘘です。一旦、大気圏(デフレ状態)を脱出することができれば永久的に大気圏(デフレ状態)には戻らないのです。財政規律を維持するのはそれからの話しです。
このままではデフレという大気圏を脱出することができません。