中国の成都で開かれていた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、昨日(24日)の午後、各国による政策総動員の重要性を再確認して閉幕しました。
政策の総動員とは、①金融政策、②財政政策、③構造改革の三つをG20各国が個別に行っていくというものです。
とりあえず突っ込みを入れておきますと、アベノミクスと同様に①と②は適切なデフレ対策ですが、③はインフレ対策であり世界的デフレ期の今には不適切な政策です。
因みに、主流派経済学たる新古典派経済学は財政出動を邪道な政策としています。なぜなら、意外に思われるかもしれませんが、そもそも新古典派経済学はデフレを想定していないからです。デフレを想定していないので、デフレ対策はすべて悪とされてしまうわけです。逆に、デフレを想定していないからこそ、構造改革は常に正義!、となるのでございます。
ところで、黒田日銀総裁はG20閉幕前に記者会見を受けたようです。
『日銀総裁「必要なら追加緩和」 財政政策と協調重視
G20会議に出席、28~29日に決定会合
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H1U_T20C16A7MM8000/
日銀の黒田東彦総裁は23日、訪問先の中国・成都で記者団に「物価・経済のリスク要因を点検して物価安定目標を早期に実現するために必要ならば、追加的な金融緩和措置を講じる」と語った。「中央銀行が金融を緩和している状況下で政府が財政政策を活用すれば、景気に対する効果は大きくなる」と財政政策との協調を重視する姿勢を示した。(後略)』
上の記事にある「中央銀行が金融を緩和している状況下で政府が財政政策を活用すれば、景気に対する効果は大きくなる」という黒田日銀総裁の言葉は・・・
・・・要するに「日本銀行が単に量的緩和しただけではダメで、そこに政府の財政出動が伴わなければデフレ脱却の効果はほぼ期待できない」ということを言っています。
そのとおりです。やっと、正しいメッセージを発信されるようになりました。
と同時に、これまで日銀が頑なに主張してきた「期待インフレ率理論」が、全くもって成立してこなかった事実をようやく自らお認めになった発言であったとも思います。
期待インフレ率理論とは、日銀が「物価目標は2%」とコミットメントしたうえで、金融機関が日銀にもっている当座預金残高を増やす。そうすることで、名目ではなく実質的な金利を下げて投資を増やしてデフレを脱却する、というものです。
※実質金利 = 名目金利 - 期待インフレ率
ところが、実際にはそうはなりませんでした。
下のグラフは金融機関が日銀にもっている日銀当座預金残高です。
黒田日銀は発足以降、「インフレ率が2%(2年間)に達するまで量的緩和を行います」とコミットメントし、金融機関の保有国債を購入することで当座預金残高を増やし続けました。
ところが、インフレ率(消費者物価指数)をみると、直近3ヵ月、みごとにマイナスです。
コアCPI(日銀がインフレ率の指標としている指数)を長期データで見ても、下のグラフのとおり2%には遠く及ばず悲惨な結果になっています。
なぜ、このようになったのかといえば、日銀の金融緩和と同時に政府が財政出動を行ってこなかったからです。
その反省から安倍総理は、ようやく財政出動の必要性を認めたわけです。ところが、財務省をはじめとした緊縮財政派(新古典派経済学派)たちによる抵抗から、またもや財政出動が骨抜きにされそうになっています。
経済対策の規模は20兆円だけど、真水の財政出動(需要創造)は3兆円規模になるとも言われています・・・
これでは藤井内閣官房参与の主張されている、デフレ脱却のための脱出速度を確保することができません。
23日の黒田日銀総裁の発言は、そうした動きに対するけん制の意があったのではないでしょうか。