一昨年(平成26年)の12月12日に開催された「第5回地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」で二次医療圏別療養病床の平均在院日数が公表されました。
下の図をご参照ください。小さくて見にくいですが、図をクリックすると拡大されます。
川崎南部医療圏(川崎区、幸区、中原区)は158.1日と全国的にも平均的な数値となっています。
それに対して、川崎北部医療圏(多摩区、麻生区、宮前区、高津区)は344.8日となっており、長さでは全国344二次医療圏の中でも最下位から9番目という大都市の医療圏ではまさにワースト1の状況です。
東京都の南多摩医療圏が237.1日とやや高いのを除けば、他は150日前後です。川崎北部医療圏が周辺と比較してもいかに突出して高い値となっているのかが解ります。
また、『川崎市地域医療計画』によると、川崎北部医療圏では入院患者のうち31.5%が市外居住者であり東京都からは17%、横浜市は9%となっており、南部医療圏では27.8%が市外居住者であり、そのうち5.4%が東京都、19%が横浜市と記載されております。
東京の多摩地区や川崎北部にある療養病院には療養病床の不足が著しい東京23区内に住む比較的裕福な高齢者の流入が多いと言われています。
行政区域が異なると、その患者の居住地で行われている在宅医療に結び付ける連携体制がないかぎり入院が長期化することになります。
そのことが、人口10万当たりの療養病床数が最も少ない地域とされている川崎市に居住する高齢者の行き場を狭めているのではないか、という問題を私は川崎市議会で再三にわたり提起しています。
現在、神奈川県は「2025年の目指すべき医療提供体制の構築」に向けて、『地域医療構想』の策定の作業を行っています。
具体的な協議の場として「地域医療構想調整会議」が二次医療圏ごとに開かれています。そうした中で、地域医療構想の策定責任主体である神奈川県と実際に施策を展開する川崎市当局が具体的にどのような話し合いを行っているのか、現段階においてその詳細はわかりません。
わかりませんが、確実に言えることは、現在のような緊縮財政主義(グローバリズム思想)の下で療養病床を充実していくことはほぼ不可能である、ということです。
現に財務省は、厚生労働省に療養病床の削減を求め、それを受けて厚労省も病床再編(いかに現在の療養を減らすかの再編)を進めています。
となると、療養から追い出された患者さんの行き場の確保が重要になります。とはいえ、昨日も取り上げましたとおり、それを在宅医療・介護で補うにもまた限界があります。
結果、特別養護老人ホームをはじめとした高齢者福祉施設での療養難民の受け入れが大きなポイントになります。
しかしながら、現在の高齢者福祉施設が十分な受け入れ体制を整えているとは必ずしもいえません。
これからの高齢者福祉施設においては、ある程度の医学的管理能力が求められます。施設入居者の健康状態をいかにメンテナンスできるかなどの能力です。例えば、施設と近隣の開業医とが提携契約をし、施設入居者の医学的管理を行うなどの措置が必要となるでしょう。
私の知人で在宅医療を行っている開業医の先生がいるのですが、その先生によると、「昼間に診療して丁寧なケアを行っていれば、夜中に具合が急変して呼び出されることはほとんどありません」とのことでした。
高齢者福祉施設における救急搬送状況について調査したところ、平成26年の一年間で、川崎市内の施設入居者のうち、なんと三分の一の入居者が救急搬送されています。
中には、緊急性を要しない軽度な風邪程度で救急車を呼んでいる施設の事例もありました。私はこれを、施設による救急車への「押しつけ医療」と呼んでいます。
つまり、高齢者福祉施設において日常の医学的管理がしっかり行われておらず、医学的管理を救急車に丸投げしているという実態です。
私は昨年、この問題についても議会で取り上げ、南部浩一消防局長に質問したところ・・・
『南部浩一(消防局長)
老人福祉施設等への対応についての御質問でございますが、川崎市老人福祉施設事業協会等で構成する合同施設長会におきまして、救急車の適正利用等について御協力をお願いしているところでございます。また、各消防署におきましても、老人福祉施設等との情報連絡会を開催し、各施設の実情に応じた円滑な救急搬送について御協力をお願いしているところでございます』
とのことでした。
こうした施設による悪質な救急車への「押しつけ医療」が増えると、真に救急搬送が必要な患者さんたちが迷惑を被ります。
こうした観点からも、私はこれからの高齢者福祉施設における医学的管理の重要性を訴えているわけです。
昨年の12月定例会において、高齢者福祉施設における医学的管理を充実させるために、当局として具体的にどのような取り組みを進めたのかの確認をしたところ、当局から次のような答弁を頂きました。
『成田哲夫(健康福祉局長)
介護付有料老人ホームの設置運営法人募集要項におきましては、協力医療機関等への情報提供や、利用者の健康状態の記録を内容とする医療機関連携加算の取得を、新たに必須条件といたしました。また、常勤看護師を配置の上、医療機関等との24時間連絡体制を確保し、入居者の病状が重度化した場合に備えた指針の策定などにより構築する夜間看護体制や、協力医療機関と併せて協力歯科医療機関の確保は、施設運営にとって、重要な要素であると考え、引き続き、加点項目としているところでございます』
川崎市当局としては、老人施設における医学的管理の重要性について一定の理解をされているようです。今後は、有料老人ホームだけではなく、この医学的管理の重要性を特別養護老人ホーム等、他の老人福祉施設にも広げていくよう取り組んで参ります。