我が国の経済は10年以上にわたってデフレが続いており、加えて公共事業費の大幅な削減などの要因もあって、日本の技術力を支えている技能工や職人などの技術継承がうまく為されていない状況となっています。
また、職人や技能工は高齢化し、あるいは見切りをつけて廃業したり、3Kを嫌って技能工の育成供給がなされていないことによる人手不足も深刻な問題となっています。
かつての日米構造協議や、日本政府に対する米国による年次改革要望書以来、また、いわゆる小泉・竹中氏らによる構造改革を進めた結果、企業は株主のものである、という経済思想が蔓延し、「ものづくり」を基盤とした我が国の経済構造は、いわゆるグローバル投資家のための株主資本主義へと変貌をとげてきました。
その結果、お金で全てを解決しようとする社会構造さえできつつあります。
しかし、こうした株主資本主義では、我が国の技術力を維持することはできません。例えば四半期ごとの業績評価や、頻繁にM&Aが繰り返されたり、あるいは非正規雇用が中心となるような雇用形態では、一つの企業のなかで長期的な雇用がなされないので人と技術が継承されにくくなってしまうからです。
そもそも我が国の強さは現場で働いている人の強さにあります。特に日本の「ものづくり」は、現場の人、職人、技能工の質が高いことが強さの原点となっています。
ゆえに、トヨタや日立などの技術を付加価値とする企業は、技能工の育成を社内で行っています。
一方、本市の技能工支援をみると、中学校や高校定時制での技能職体験、あるいは技能後継者の育成、及び、技能向上のための職業訓練校への運営支援などの支援事業が実施されていますが、まだまだ規模も小さく、現場の技能工や技能工を抱えている企業を育成支援する制度については皆無となっています。
そこで、昨日の川崎市議会(予算審査特別委員会)において、新たな提案を行いました。
例えば、現行の市営住宅は公営住宅法の制約もあり、入居の要件は所得制限によって決められているので、結果として、生活保護などの経済的弱者の受け入れという受け身の政策となっています。が、今後の本市の施策として、市営住宅に職人や技能工などの一定優先枠を設け、中小企業や建設業の職人、技能工にとって住み易い街を作っていくことをモデル事業的に行うという提案です。このことは、日本の国全体にも必ず貢献することになります。
これまでのような福祉施策的な市営住宅の活用ではなく、経済政策や人材育成という観点から、職人・技能工など、相対的に収入が少なく住宅手当もあまり期待できない産業の働き手に対して、一定の優先枠を設けて本市の市営住宅に入居しやすくすれば、技能工を育成する企業などへの支援にもつながるのではないでしょうか。
例えば、大工、左官、塗装工、配筋工(鉄筋)など、職種に一定の枠を設け、各々の技能団体から、人物が確かでやる気もあり、将来その業界を担えそうな若者で、住宅に困窮している者を推薦してもらい、ガラス張りの委員会などで選定するという「(仮称)技能工等の市営住宅優先入居制度」のようなモデル事業をつくり、全国に先駆けて本市が取り組み、新たな制度として国に提案するのです。
むろん、様々な課題はありますが、大都市の自治体として取り組むべき価値ある制度であると思います。これからの行政には、こうした発想が求められていると思います。