条例の趣旨はアレルギー性疾患対策
本市は、平成18年に『川崎市成人ぜん息患者医療費助成条例』を制定し、アレルギー性疾患対策の位置づけとして、成人喘息に対し、医療費助成を全国に先駆けて開始した先進的な都市です。おそらくアレルギー性疾患を正面から捉えた初の自治体と思われます。
一方、私が昨年(平成26年)の6月議会で取り上げて以来、何かと評判の坂元論文ですが、それと同一の疫学的手法を用いている『神奈川県医師会気管支ぜん息患者神奈川県下実態調査報告書』によれば、喘息の原因は自動車による大気汚染ではなく、ハウスダスト等によるアレルギーであると明確に結論づけられています。
現在では、国民の約2人に1人が喘息以外にもアトピー性皮膚炎、花粉症など何らかのアレルギー性疾患にかかっていると言われており、かつアレルギー性疾患は国民病とも言われているほど深刻な中、この川崎市の条例は、アレルギー対策をうたっておきながら、その対象疾患が喘息だけであるというのは、疾病の平等性や現在のアレルギー性疾患の多様性に対する視点が明らかに欠けていると言わざるを得ません。
このことは昨年の6月議会から一貫して申し上げてきたところです。
各保健福祉センターへの相談内容
現在、川崎市の各保健福祉センターにおいてアレルギー相談事業を行っていますが、アレルギー性疾患に関してどのような相談が多いのか、その実態について確認したところ、
平成25年度の相談件数は全体で335件で、内容としては、離乳食の進め方や食物アレルギーに関する相談が177件(52.8%)、湿疹やアトピー性皮膚炎に関する相談が131件(39.1%)、繰り返すせきや喘息に関する相談が14件(4.2%)、その他、親からの遺伝に関する相談やセカンドオピニオンに関する相談などが13件(3.9%)となっています。
条例の趣旨に則って、喘息以外のアレルギー性疾患対策についても充実を
こうしたことを踏まえて、私は去る12月議会において、成人喘息以外のアレルギー性疾患についても、疾病動態などの調査、今後の医療費助成のあり方、そしてその財政的な基盤の検討、さらにはアレルギー性疾患以外の疾病との公平性の問題なども真剣に考える必要があることを議会で指摘しました。
加えて、今後のアレルギー性疾患対策をさらに前進させるため、アレルギーについて扱う担当課を例えば健康増進課等に一本化するなどの対応が求められると思います。また、条例の目的とその施策の整合性を一致させるためにも、現在の成人ぜん息患者医療費助成制度の条例の名前を例えば川崎市アレルギー対策基本条例というように改名する必要があろうかと思います。
こうした担当課の一本化、条例名の変更等について健康福祉局長に見解を求めたところ、
「本市では、成人ぜん息患者医療費助成事業をアレルギー対策として実施している。本事業では、気管支喘息を助成対象疾病としているが、アレルギー性疾患には気管支喘息以外にもさまざまあるため、本制度の経過やほかの疾患の医療費助成とのバランスや公平性等を考慮しながら、今後の制度のあり方について検討してまいりたいと考えている」との健康福祉局長からの答弁でした。
福田市長もアレルギー性疾患対策の必要性を認識
福田市長に対しても、今後の川崎市におけるアレルギー対策についてどのようなお考えをお持ちになっておられるのか、見解を求めたところ、
福田市長からは「最近の国の審議会報告によると、アレルギー性鼻炎・花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、食物アレルギーなど、国民の約2人に1人が何らかのアレルギー性疾患にかかっていると推定されている。川崎市のみならず、我が国全体の課題として、しっかりとしたアレルギー対策を講じていく必要があると考えている」との答弁。
成人ぜん息患者医療費助成制度のバージョンアップを
福田市長の答弁は、「喘息もアレルギー性疾患の一つとして捉えている」ということで、「喘息の原因は大気汚染でなく、ハウスダストなどによるアレルギーである」とする神奈川県医師会調査の結論と符号しているようです。
そこで私は、条例の趣旨にのっとってアレルギー性疾患対策への取り組みについて一層の強化を図るとともに、全てのアレルギー性疾患の方々にぜひとも役に立つ条例として、助成制度をさらにバージョンアップして頂くよう切に要望しました。
正しい対策は、原因の正確な把握から
下記の資料は、前述した神奈川県が神奈川県の医師会に対して委託した『気管支ぜん息患者神奈川県下実態調査報告書』です。
この報告書の中でSPMの汚染状況の経年比較と人口1,000人に対する各地域の患者数の年次推移が示されています。それをそのまま私がグラフ化したものが下の図です。
グラフの上段がSPMの鶴見区、川崎区、旧相模原市、旧津久井郡それぞれの平成14年から平成21年までの経年比較です。下段が人口1,000人当たりの喘息患者数のそれです。
見ていただくと、平成14年以外はおおむねSPMの濃度の高いほうから鶴見区、川崎区、旧相模原市、旧津久井郡の順になっていますが、それぞれの地域の人口1,000人当たりの喘息患者数は明らかにこれと全く相関しておりません。
例えば一番右側の赤丸で囲んだ直近の平成21年だけを見ていただきたいと思います。
それを拡大したのが下記のグラフです。
これを見てもおわかりのように、山間部にある汚染度の低い旧津久井郡のほうが神奈川県内で汚染度が最も高い鶴見区よりも患者数が多いという結果になっています。
神奈川県医師会は、これらのデータの詳細な分析から、喘息の原因として自動車公害とは別のハウスダストなどの要因が示唆される、つまり、端的に言えば、自動車は喘息の原因とはなっていないと結論づけたわけです。
このように、自動車の排ガスが主因とされるSPM濃度と喘息との間に何ら相関性を見出せないという報告を神奈川県医師会は神奈川県の委託を受けて坂元論文よりも3年も前に既に発表していたわけですが...
ある専門家によれば、まさに坂元論文は40年間に及ぶ川崎市内のデータを用いて、この医師会の報告書を裏づけた形になっていると言える、ということでした。さらに、ハウスダストの本体は、実はダニの死骸などであるとのことでした。