わが師、松沢成文神奈川県知事は、昨年の6月に名著『破天荒力』を上梓された。『破天荒力』は、江戸時代末期から昭和初期にかけての温泉地・箱根の開発史を知事が独自の視点から紹介した書物である。そこには、富士屋ホテルの創業者・山口仙之助や福住旅館の福住正兄(まさえ)など、箱根の開発に心血を注いだ傑物たちの破天荒力が描かれている。
この『破天荒力』を読んで、つくづく感じたことがある。それは私有財産の有用性についてである。もちろん彼らの開発にかける熱意や志、そして桁はずれの公共心に感服するところは実に大きい。ただ、それらを可能にしたのは何と言っても私有財産の存在である。といって私は「金がすべて」などというナンセンスなことを言っているのではない。私有財産を認める社会とそうでない社会を比較すれば、社会としての発展度と充実度に大きな隔たりがでるにちがいない、ということを言いたいのである。
例えば、福沢諭吉は朝鮮の近代化を願い、私有財産を投じて『漢城旬報』という朝鮮で初めての新聞を発行した。それと同じように、箱根の福住正兄は私有財産をかき集めて、小田原―箱根湯元間の道路の開削事業を行った。行政に依存せず、民間の力によって道路整備がなされたのである。また福住は、箱根に投宿していた名代の浮世絵師・安藤広重に、いわゆる「箱根観光ガイドブック」を制作してもらった。むろん、その財源は福住の私財だ。このガイドブックが箱根全体の発展に資したことは言うまでもない。
このように私有財産は、人間のもつ壮大な夢と志を具現化させるための最大の武器なのである。その力が社会資本の整備や地域の雇用を生み、文化やスポーツの振興にも役立つ。それに、良い社会は良い家族の集合体であり、家族の経済的基盤も決定的に私有財産だ。そして何よりも、私有財産の無いところに自由は存在しないのである。
残念にも、現在の日本の税制は私有財産を認めるようにはなっていない。過度な累進課税や高率な相続税は多くの国民に重税感を与えている。さらには消費税の増税までもが議論される有様だ。いい政治とは、安い税制に他ならない。まずは遺留分制度を含めて相続税を廃止すべきだろう。税金として徴収され役人に雲散霧消されるより、国民が自らの判断で自由に私有財産を投じた方が、社会の発展に大きく寄与することになるにちがいない。
私は減税こそ、最大の福祉、最大の規制緩和、最大の行革であることを確信する。
『破天荒力』は映画化され、2月16日(土)から上映されます。
ぜひ、ご観賞を・・・