この世の中には、どんなに明らかな統計やデータという事実を突き付けられても、絶対に誤った意見を変えようとしない不思議な人たちがいます。
もちろん、その意見や論理が正しいのであれば一向にかまわないのですが、彼らは病的なほどにご都合主義的な曲解とデマで悪論を流布しようとします。
例えば、デフレは総需要の不足である、という真理を無視して、あくまでも「デフレは貨幣現象」と言い張る人たち。あるいは、自国建ての国債を発行している経常黒字国の我が日本国政府がデフォルトする可能性はゼロであるのに、日本財政破綻論を展開して世を惑わす人たち。
世の心理学者の皆様におかれましては、こうした類の人たちの心理状態について、ぜひ科学的な観点から研究してもらいたいものです。
経済問題のみならず歴史問題においてもしかりです。あるいは環境問題においても同様の人たちがいます。
例えば環境省では、幹線道路沿道における局地的大気汚染と呼吸器疾患との関係について解明するため、平成17年度から幹線道路住民を対象とした大規模な疫学調査『局地的大気汚染の健康影響に関する疫学調査』、いわゆる…そら(SORA)プロジェクト…を実施しました。
専門家によれば、この『そらプロジェクト』は、自動車排気ガスと喘息発症の因果関係を調査したものとして過去最大かつ最高レベルの水準の研究であり、このレベルを超える研究はほぼ不可能でその意味もないとのことです。
また、研究から判ったことは「自動車の排気ガスが喘息に及ぼす影響は極めて小さい」と考えるのが科学的にも妥当であるとのことでした。
ところが、この世にはそうした客観的事実を認めようとしない人たちがいます。
「喘息発症の主因はあくまでも自動車の排気ガスだぁ~」という人たちです。
どうやら彼らは「因果関係がある=主因である」という図式が脳幹に染み込んでいるようですが、因果関係があるという事実からは影響の大きさは測れません。
例えば、トヨタ自動車が超燃料効率に優れた新型プリウスを発売したとします。そこで「新型プリウスの販売」と「原油価格の値下がり」との間に何等かの関連があるかを統計的に調べた場合、もしかすると因果関係があるかもしれません。
しかしながら、仮に両者の間に因果関係があったと判定されても、原油価格の下落の主因が新型プリウスの販売であることを意味しているわけではありません。当然ですよね。
恐らく中国経済の失速やサウジなどが減産しないことなどが主因であるかと思われます。
このとき、何が主因かを調べるためには、それぞれの因子との間のオッズ比を比較することが必要となります。
『そらプロジェクト』では、自動車排気ガスと種々のアレルギーの影響因子との間のオッズ比が計算されています。結果、最も高かったのが「室内ペット飼育」で、オッズ比は7程度という極めて高いものであり、自動車排気ガスは2程度という極めて低いものでした。
通常、2程度のオッズ比では「因果関係はあっても影響は極めて小さい」とみるのが一般的のようです。
つまり喘息への影響のもっとも大きな因子は明らかに「室内ペット」とのことです。
しかしこの「そらプロジェクト」研究の目的は、「自動車排気ガス」と喘息発症との因果関係を調べることを目的とした研究でしたので、「室内ペット飼育」について報告書には記載されつつも、環境省はこれに言及してきませんでした。
統計学の初歩的な知識のない人たちにとっては、悲しいかな「因果関係あり=それが原因の全て」になってしまうようです。
過日の私の議会質問で明らかになったように、喘息低減に最も影響を及ぼすのは“治療の標準化”です。